福島第一原発処理水(2/2)━馬場伯明
★福島第一原発処理水(2/2)━馬場伯明
↓「わたなべ りやうじらう のメイル・マガジンー頂門の一針 7月23日」より
福島第一原発処理水の「海洋放出」
2023年7月5日、新聞各社は福島第一原発の処理水の「海洋放出」に関して、国際原子力期間(IAEA)の報告書を大々的に報じた。「『計画は国際的な安全基準に合致』し、人や環境への影響は『無視できるほど』とする(2023/7/5朝日新聞)」。
2023年7月15日、日経新聞。「西村康稔経産相が都内の坂本雅信全国漁業協同組合連合会長を訪れ、2023年8月にも始める東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出への理解を求めた。坂本会長は『科学的な安全に関する理解は一定程度できたと思う』としつつ『科学的な安全と社会的な安心は違う。しっかりした安心を得られない限り、反対の立場を崩すわけにはいかない』と強調した」。
しかし、一方で、政府と東電は「2015年に処理水の処分を県漁連に『関係者へ丁寧に説明し理解なしにはいかなる処分もしない』と約束していた。そして、海洋放出施設を完成させた今も、「破棄する」と言わず、「約束は順守する」と言い続けている。
このような情勢の中で政府と東電の実務作業は着実に進んだ。原子力規制委員会の検査も完了し、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は包括的な報告書で「国際的な安全基準に合致する」と結論付け提示した。韓国の野党「共に民主党」は反対しているが、尹錫悦大統領は海洋放出に理解を示しつつある。政府(と東電)は風評被害対策に800億円を計上しそれを梃子に漁連との約束を実質的に反故にしそうな勢いである。2023年8月には海洋放出の具体的な時期の最終判断が出そうである。
私は、現在の情勢では、福島第一原発処理水の「海洋放出」はやむを得ないだろうと思ってはいる。しかし、奥歯に何かが引っかかっているような気がして、釈然としない。処理水を海洋放出しない合理的な実用化技術はないのか・・と。
そもそも、正常に稼働している原発からの放出水は、全世界の原発で、濃度・数量の規制基準の下で放出されているが、炉心溶融の事故を起こした原発の「汚染水」を浄化処理した「処理水」の海洋放出は例がない。韓国の野党や中国などは、その点を衝いているものと思われる。
汚染水の多核種(62種)の放射性物質が、ALPS(多核種除去設備)で規制基準未満に除去されているのかどうか。そのデータは公開されているが・・・。海洋放出の実行については厳しいモニター(監視)が不可欠である。
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/images/exit.pdf
そもそも、処理水の海洋放出ではなく、もっと独自の発想で、新しい技術を開発し、実用化できないものか?
じつは(!)政府やマスコミ(新聞・TV等)がほとんど報じていない重大な事実がある。東京電力(以下、東電)が国内外に向け行っている募集である。それは、「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)に対するトリチウム分離技術の募集」だ。分離できないためにトリチウムを含む「処理水」を海洋放出せざるを得ないはずなのに、トリチウムの分離を目指す技術を募集しているのである。
2021年5月に開始した。現在は三菱総研が東京電力より依頼され募集をとりまとめている。次の通り。
東京電力福島第一原子力発電所多核種除去設備等処理水(ALPS 処理水)に対するトリチウム分離技術の募集|MRI受託事業 公募・公開情報
三菱総研発信 2023/6/30。《ALPS処理水に対して実用化のレベルに達しているトリチウムの分離技術は現時点において確認されていません。トリチウム分離技術の実用化の可能性について、幅広い調査の実施や提案を受付け、第三者機関を加えた体制により、現実的に実用可能な技術が確認できた場合には、積極的に検証を進め、取り入れていきます》
募集が開始され、1~4回目の募集で110件(国内71件、海外39件)の応募があり、1次・2次評価を経て、現在、国内外の10社の提案に絞り込まれている。引き続きFS(フィージビリティスタディ)の段階へ進んでいる。東電のこの募集のテーマは、現下で実施されようとしている海洋放出とは明確に対峙する研究開発である。
ところが、不可解なことがある。東電のこの募集について、NHK、民放TV、ラジオ、新聞5社(読売・朝日・毎日・産経・日経)など有力なマスコミはほとんど沈黙している。東電(三菱総研)がWEBサイトで「公開」しているのに、マスコミ各社はなぜ積極的な報道をしないのか。どこからか報道規制の指示でもあったのか。
東電のWEBサイトから引用する。1次評価・2次評価を経て残った7社(2023/3/9)と3社(2023/5/29)を紹介する。(代表者・所在国・代表者以外の構成者の順に記載する。株式会社等を省略した)。
1. イメージワン・日本・創イノベーション/慶応大学
2. 本田技術研究所・日本・北海道大学
3. 中国広核工程・中国
4. EQUIPOS・スペイン・ENWESAほか
5. KINECTRICS・カナダ・LAKER・TRF
6. 蘇州思卒同位素技術研究所・蘇州大学/京都大学
7. TYNE ENGINEERING・カナダ
8. LANCASTER UNIVERSITY・イギリス
9. VEORIA NUCLEAR SOLUTION・アメリカ
10. 東洋アルミニウム・日本・東京大学
応募者企業等の研究取り組みの進行は次の通りである(三菱総研)。
「FS」では、福島第一の導入するための設計条件を設定し、実プラントの概念設計および実証試験に関する提案を受け、実用化に向けた検討を実施。「小規模実証試験」は「未定」、福島第一場外での実証試験、
研究開発の【プロセス】は、一次評価(三菱総研)→二次評価(東電)→FS(東電・第三者)→小規模実証試験(福島第一場外)→実証試験
(福島第一場外)と進行する。【評価方法】は、1,求める技術に対し、将来的にすべて満たしうると判断するのに十分な、具体的かつ定量的な内容委が示されているか。2,一、二次評価では核提案者に関する調査や提案の中で参照・引用されていた論文の確認による検証と確認などについて評価。
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/1h/rf_20230309_2.pdf
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/1h/rf_20230529_1.pdf
英米中、カナダの海外の企業7社、日本では3社が残っている。大学では、東大、京大、北大、慶大が構成員として開発に参加している。10社が開発にしのぎを削っている。私は縁あって、10社のうちの1社である創イノベーション(+イメージワン+慶応大学)に知己を得ている。
創イノベーション(株)の研究者たちは地道な研究を続け2015年経済産業省「汚染水処理対策技術検証事業(トリチウム水分離技術検証試験事業)」において、同社の方法が採択された。「二段ガスハイドレート法」である。汚染水中のトリチウムを分離し、濃縮・減容化(1/100)できる可能性が見えてきた。現在実施されようとしている、薄めて海洋へ放出する「簡易多量方式」から、トリチウムを分離し処理対象を大幅に減量する「高次少量処理方式」への抜本的な技術開発の転換を目指すものである。
「(二段)ガスハイドレート技術」とは、水だけを結晶に取り込むガスハイドレート技術により原水中の不純物を低コストで除去する(詳細は略)。この方法(技術)の実用化により福島第一原発の1,100基のタンクは1/100の約10数本に激減する。あとは減容後のトリチウムを地上や大深度地下に貯蔵すればよい。福島の漁業従事者や関係者、いや、それだけではなく、あれこれ異論を吐いている中国・韓国を含め、世界の漁業者が熱望する「海の安全」を確保することができるのだ。
じつは、数年前に痛恨の出来事があった。創イノベーション(株)等を率い開発に邁進し、国の機関などと渡り合っていた早藤茂人氏(代表)が病死した。無念の最後であったと聞いた。早藤氏の後に続く人たちが力を尽くし、成功の頂上(いただき)にぜひ到達してほしい。
「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)に対するトリチウム分離技術」の研究開発により、(汚染水~)処理水を海洋放出しない技術開発と実用化に至ったら何とすばらしい。トリチウムが分離され汚染水の保管タンク数量が激減する。海洋放出が不要となるので、漁業への風評被害は消えていく。国や東電の風評対策費も不要となるだろうし、漁業者は心おきなく本業に勤しむことができる。
しかし、技術開発と実用化には相当の年月が必要となるであろう。急いでほしい。2023年から当分の間処理水を海洋放出したとしても、トリチウム分離技術が開発され、有意な事業として実用化されたら、その時点で比較検討し、海洋放出の継続・中止の判断をすればよいのである。
だから、国や東京電力は「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)に対するトリチウム分離技術」の開発の速度を上げるために、現在FS(Feasibility Study:フィージビリティ・スタディ)に至った10社に研究資金(補助金)を投入し、相互の競争を促し、早期の開発の成功を支援すべきである。
重要なことは、原子力の平和利用の三大原則「民主・自主・公開」の精神を参考にして研究開発を進めることである。国民の目に見える透明性ある開発を主導してほしい。
マスコミは、トリチウムの新分離技術の開発に注目し、開発の推移を追いかけ、取り組んでいる各社が早期の開発の成功と実用化に至るように、国民に進捗状況を知らせ、積極的に応援してもらいたい。
最後に、政府や東電に申しあげたい。福島第一原発の将来の廃炉も見据え、(予定の)海洋放出を行いつつも、本開発と実用化の全体の進捗を積極的に主導し資金面を含め、支援していただきたい。
福島の漁業者と日本国民の願いであり、また、世界の願いでもある。(2023/7/18 千葉市在住)
……
★『今井の視点』福島第一原発にたまる処理水の海への放出について
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E4%BB%8A%E4%BA%95%E3%81%AE%E8%A6%96%E7%82%B9-%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%81%AB%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%82%8B%E5%87%A6%E7%90%86%E6%B0%B4%E3%81%AE%E6%B5%B7%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%94%BE%E5%87%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/ar-AA1ea7Kg?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=02cd12571b8841be9001d739ea25dcd0&ei=17
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